SQ-38FD再生計画
オークションの真空管アンプをウォッチする日々が続きます。とある日、ジャンク品として永遠の名器ラクスマンの誇る真空管プリメインアンプSQ38FDのシャーシが売りに出されていました。本体から真空管及び出力トランス、チョークが抜き取られたものです。フロントパネルは何とも存在感のあるデザインであり、いかにも良い音が出てきそうなたたずまいを残すいにしえの職人により時間と費用を惜しみなくつぎ込んだ逸品と言った印象です。ちょっとほめ過ぎかもしれませんが、発売された頃は絶対に所有できない高嶺の花のアンプであったことを記憶していました。豪華なウッドケースもついています。オークション終了まで後1日です。現在価格8000円です。これは是非とも落札したいと思いました。オークション市場を刺激しないように入札もせずひっそりと終了間際まで待ちを決め込むことにしました。結局15000円くらいだったと思います。ちょっと予算オーバーでしたが落札しました。届いたものは予想より使用感がありましたが、これを丹念に磨いて再生してみたいという思いが沸々とわいてきます。



フロントパネルが大分黄ばんでいます。前オーナーが喫煙されていたのでしょうか?おそるおそるピカールを使って表面の汚れを削ぎ落としていきました。パネルはダイキャストで作られているようです。かなり厚みがあります。また、文字は全て掘り込みです。シルクプリントでありません。往時の熱の入れようが窺い知れます。汚れたものを磨いて美しくしていく行為は何とも気持ちのよいものです。つまみなどもそんなに大きなダメージがありませんでした。




早速SQ38FDの回路図をラックスから取り寄せて色々と調べてみました。出力トランスとパワー管をどうしようかと少し悩みました。真空管のソケットの位置からシャーシの天板までの高さが思ったよりも低いことから、使えるトランスやパワー管にかなり制限があることがわかりました。結局落ち着いたのはタンゴ(ISO)のFE-25-5です。これから長く使えるようになるべく中古品は使わず入手できる現行品でそろえたいと思いました。パワー管についても今までEL34アンプの経験があったのですが、背が高すぎて今回は使えません。結局5881という真空管にしました。6L6GCという有名な5極管と同じような電気特性を持った出力管です。ロシア製(Tangsol)で現在でも作られていますのでこれにしました。オリジナルは30Wをひねり出す為に多少無理をした設計であったことから、出力管や出力トランスを損傷事故が起きたそうです。今回は10W程度あれば十分なので出力アンプは全段差動増幅回路を採用しA級動作としました。電源トランスはシャーシについていましたが、それをそのまま使うのは難しそうなのでそれはあきらめました。春日無線さんに自分の仕様のトランスを巻いてもらいました。要求スペックは280-0V 200 mA CT, 6.3-0V 3.5 ACT 2回路としました。トランススペック(O-BS700) というもので12000円でした。大変良心的な価格で助かります。ラックスのオリジナルトランスLUX8A70Bはオークションで売りました。これが驚くことに1万円で売れてしまいました。何とたったの5000円でシャーシ、フロントパネル、ウッドキャビネットをゲットできたことになります。チョークについてはちょうどオリジナルのものがアムトランスさんから売りに出ていました。3000円でした。早速お店に行って購入しました。社長さんからじかにいただいたのを覚えています。プリアンプ部分は無傷で生き残っているようなのでとりあえずオリジナルを使うことにしました。設計した回路図はここにあります。素人が設計したものですので、この回路を試されて起こった事故につきましては自己責任でお願いいたします。 電源回路はこちら メインアンプの回路はこちら


オリジナル電源トランスを外した状態が左です。発注した春日トランスはまだ来ませんのでそれ以外の金物加工(メインアンプの全てのソケットを新しくして、電解コンデンサーの取り付け用の穴、出力トランス用の穴開けなど)を行い、部品をつけてみました。なかなか見栄えがします(自画自賛です)。



トランスも届きました。設計図に従い配線を進めていきます。プリアンプはいじるつもりはなかったのですがオイルペーパーコンデンサーの劣化が心配なのでフィルムコンに変更しました。電解コンデンサーもオーディオ用の新品に交換しました。EQ回路の時定数を決めるコンデンサーはもとからフィルムコンデンサーのようでしたからそのままにしてあります。



楽しい再生計画も佳境に入ってきました。残すはウッドケースの補修だけです。傷のあるところを中心に少し粗目(400番くらい)のペーパーを軽くかけて表面を少し平らにして、はけを使って水性のニスを塗りました。これがまた曲者です。安いはけは絶対に禁物です。はけから抜け落ちた毛が塗った表面についてしまいます。何回か塗りなおしました。その結果オリジナルよりだいぶん色が濃くなってしまいました。ホームセンターで一本1000円位するはけにしてください。水性のニスの良いところは使用後に水でよく洗うとはけは何度でも使えることだと思います。そう考えると少しくらいの投資は我慢できます。




やっと完成しました。どんな音が出るか楽しみです。プリアンプは生きているかも気になるところです。リアパネルにはスピーカー端子が2系統ありますが、とりあえず1つしか使いませんので1つだけ金メッキのものに変更しました。黒いパネルに金の金具は何とも見栄えがしますから、調子に乗ってアース端子も金メッキにしてみました。



早速リビングにあるメインシステムのアンプの代わりに再生したSQ38FDをスピーカーにつなぎました。電圧チェックは済んでいるのですが音出しの時の緊張感は格別なものがあります。電源を入れるとパイロットランプがすぐに点燈しました。今回は電球色のLEDにしました。どこかの記事で交流点火のパイロットランプの電線からノイズを拾っているとのことでしたのでそのようにしてみました。見るからに精悍なフロントマスクです。丹精な感じでありながらものすごい存在感があります。センスの良いデザインに改めて乾杯です。サラブライトマンのCDをかけてみました。想像と違った線の太いしっかりとした音が飛び出してきました。やはりPPアンプの音なんだと納得しました。プリアンプもすべて正常に作動しているようです。友達に電子工学を研究している真空管好きの研究者がいます。彼が私の回路を見て歪をシミュレーションしてくれました。その結果はこちらです。計算では5881ではなく6L6GCを使いました。 周波数特性 FFT解析結果 計算だと素晴らしい帯域を誇ったアンプということになります。また、FFT解析では2次歪が1%以下で3次歪に至っては千分の1という結果でした。本来は実測するべきですがなんとなく作り終えてその特性を評価するのが億劫なので未だ実現しておりません。そのうちやることにします。このアンプは手軽に良い音を出してくれるので我が家のダイニングに置いてあります。JBLミニミニモニターとDENONのCDデッキで食事の時に音楽を楽しんでいます。

プロフィール  作品集  徒然なるままに  好きな音楽



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