最初は拒否反応から始まりました。A7から出てくる音は確かに力感のある豊かなものなのですが、アナログ特有のナローレンジ(超低音も高音も出ない感じ)の音でCDに聞きなれた耳には大変な違和感でした。しかし聞き込んでいくうちに、昔よく聞いていたレコードの音を思い出したのか、自分の脳が補正をかけ始めたのか、低音も高音も聞こえて来るうに感じるから不思議です。あっという間に深みにはまったように聞き入っていました。佐久間氏のとうとうと語るレコードの歴史の話、お店の雰囲気、アナログの音、A7の咆哮、そして何より211ドライブの211シングルアンプの重厚な出力音、などすべての条件が一度に成立してしまって完全に金縛りにあったような気持ちになりました。あの感覚は1ヶ月くらい体の中に残っていたように思います。
それから是非とも送信管(845,211,838)のシングルアンプを作ってみたいと感じるようになりました。845や211はRCAやGEなどのビンテージものはかなり高価なのでちょっと手を出す勇気も貯えもありません。かといって現行品の中国製を買うのもちょっと気が引けます。それに比べて838は入手しやすい価格のようです。最初はヤフオクで2本(ペアではない)NOSを18000円で手に入れることができました。これが838アンプを作った動機です。せっかくですから838もトランス結合にしてドライブにも直熱管を使ってみようと思いVT25を選択しました。VT25のドライブは6SN7のパラ接続としました。アンプシャーシはいつもと同じタカチのSLシリーズですが、今回は最大級のSL-20としました。
メインパネルの図面、
サブパネルの図面です。
直熱管のヒーターは今回はスイッチングレギュレーターを使いました。電圧の立ち上がりをICで少し遅めにしました。またB電源も遅延回路とリレーにより十分直熱管が温まってからかけるようにしました。電源トランスは360Vの倍電圧整流で950Vを発生するTango(ISO)MS-4042というものにしました。838の
ロードラインを検討しました。その結果、動作点はE0=900 V, I0=85 mVと設定しました。プレート損失は約80Wです。ロードラインは10 kΩが適正だと判断しました。その結果トランスとしてTango(ISO)のFC-30-10Sというものにしました。段間トランスとして当初NC-16を使いましたがVT25のプレート電流で飽和してしまい具合が悪いです。イントラ反転接続も試しましたが結果は良くありませんでした。結局チョーク接続に切り替えました。この辺が悔いの残ったところです。高電圧を扱うのでかなり緊張しました。