初めて本格的な真空管パワーアンプを作りました。真空管はとりあえずJJのE34Lというもので現在も作られているそうです。ワインレッドとブルーの色ガラスが選べます。もちろん透明もあります。シャーシはエレガントな鈴蘭堂のSL-10で色はシャンペンゴールドにしました。残念なことにこの色は少しずつ褪色していくようです。アンプの天板になるべくねじが出ないようにサブパネルをつけることにしました。


天板加工前の写真です。シャーシは鈴蘭堂のSL-10です。(製造元はタカチです)。現在でも購入可能です。個人的にはエレガントなので一番気に入っているシャーシです。これに似た商品を製造しているメーカーに東京ボックスというのもあります。特注の相談にも乗ってくれるようです。知り合いの金属加工会社で天板を加工してもらいまいました。図面はこのPDFにあります。 PDFはこちら



サブパネルにソケットとブロックコンデンサーをつけたところです。



回路についてですが、初段と反転回路は素直な特性を持つ6SN7で構成しました。初段はパラ接続とし、次段典型的なマラード反転回路を採用しました。初段と反転段は直結しました。出力段ではあまり高い出力を要求しないこととし、AB級で設計しました。電流は1本あたり40mAとしかなり控えめにしました。(初めての作成であることもあり少しセーブしすぎたかもしれません。)トランスにULタップがあったのでとりあえずUL接続を選択しました。また出力管カソードに負帰還をつけてみました。またオーバーオールの負帰還も少しつけました。バイアスは固定バイアスとし、調整できる機構をつけました。電源については特筆することはないのですが、チャンネルセパレーションをよくすることを狙って左右独立としました。初めての設計でしたので、効果についてはわからないまま、好ましいとされていることを多く取り込んでみました。回路については以下のPDFに載せてあります。素人が設計したものですので、この回路を試されて起こった事故につきましては自己責任でお願いいたします。 PDFはこちら


完成したアンプ初代EL34PPアンプです。




矩形波を入れた時の出力の波形です。

10 Hzの波形です。少しザグが出ていますがある程度低域まで十分帯域があることが解ります。



100 Hzの波形です。きれいな矩形波です



1 kHzの波形です。これもきれいな矩形波です



10 kHzの波形です。ほんの少しだけオーバーシュートが観測されました。



100 kHzの波形です。約2μsの立ち上がりが観測されました。この辺りがこのアンプの高域側の限界に近いということでしょうか。



かすかなハムが認められました。スピーカーに耳を近づけなければ問題がないレベルでしたが、やはり気になります。低めのブーンという音ですので50 Hzが乗っているのだと思われます。このてのハムの原因について調べたところ、@B電源の整流が不十分で脈流がのる(両波整流では100 Hzか)、Aヒーターを交流点火した時の交流成分の一部が信号に現れる、B出力トランスが電源トランスやその他の素子が発生する交流磁場(リーケージフラックス)を拾う、Cアースラインがループをつくり交流磁場を拾う、D整流素子直後の電解コンデンサーからの脈流によりアースレベルが変動すること、などがあることが解りました。@のB電源の可能性はほとんどないことは明らかです。ハムの周波数が低いことと、十分な容量の電解コンデンサーも新品を使っていることから問題がないと判断しました。Dのトランスに帰っていく脈流成分の影響については最初のコンデンサーの負極側を直接すぐにトランスに繋いでいるので問題がないと思われます。Aのヒーターの可能性ですが、使用している真空管の6SN7やEL34は傍熱管なので可能性が低いと思われます。色々な方のパワーアンプの作例を見てみますと、初段管だけDC点燈しているケースがあります。また、すべてをDC点燈しているものもありました。今回は初段だけDC点燈することにしました。使用しているトランスのMX-280はヒーター電源もかなり余裕があるので、5 V端子と6.3Vを直列にしてブリッジ整流し3端子レギュレーターを用いて6.3 Vを作りました。またCのアースラインについても当初は母線方式を採用していましたが、ループを作る可能性があるということでこの方式をやめることにしました。


DC点燈に変更し、アースについても母線方式をやめて、再配線した結果です。後で判明したことですが、DC点燈はほとんど影響していませんでした。交流でも聴感上のハムは問題にならないと思います。改善に大きく貢献したのはアース処理の仕方でした。



しばらくは満足してCDを中心とした音源で楽しんでおりました。そのうちに何か手を加えてみたいという欲求にかられるようになってくるので不思議です。何か改善できることはないかと情報を集めているうちに木村氏が推奨している差動増幅による音質改善のことを知りました。どのような効果があるのか大変興味があり全段を差動増幅にすることを思い立ちました。差動増幅回路は世の中の増幅素子が半導体へと移行した時期に考案された技術だそうで、真空管に応用される前に真空管が衰退していったそうです。出力管の差動増幅回路は強制的なA級増幅回路となります。本機は一応AB級で設計しましたので30W位はひねり出すことは可能ですが、自宅で静かに能率の良いスピーカーを聞くということであればA級動作で十分だと判断しました。全段を差動増幅するにはいくつかクリアしなければならないポイントがあります。まず初段や次段を定電流化するための定電流素子の選定です。定電流ダイオードを使うのが一般的なようですが、ここではLM234という3端子の可変電流素子を使いました。外付け抵抗一本で電流を制御できる便利な素子です。ただ温度センサーとして利用できるぐらい温度依存性があります。真空管アンプでは真空管も含めてほぼすべての素子が温度依存性を持っているのであまり細かいことは考えずにこれを使うことにしました。カソード電流を引き込むために負電源が必要になります。そこで、初段だけ6.3VのDC点燈をしているのですがその極性を逆転させて−6.3Vとしてこの電源を流用することにしました。コンデンサーの挿入による時定数を減らすために初段と次段を直結しているのですがこれがまた問題となりました。初段管の特性の差が次段で大きく表れてしまい、調整時は良くてもすぐにバランスが崩れてしまいます。そこで初段のカソードを独立させて交流的にはショートさせることにしました。最終的に落ち着いた回路はこちらにあります。 PDFはこちら


大幅な改造をした後の配線です。あまり効果が見られなかったものはなるべく取り除きました。ラインフィルターも実害がなさそうなのでとりました。また遊び心が高じて出力管の付け根付近をオレンジ色のLEDでイルミネーションしてみました。



全段差動増幅回路へ変更したことによりアンプのパフォーマンスはどのように変化したか?この問いについて的確に答えを出せないでおります。まず反省点ですが初期の状態から出力管のカソードフィードバックを外し、UL接続から3結へ変更し、オーバーオールのNFBも変更し、全段差動へと一気に変更してしまいました。変更のステップごとに聴感上や物理的性能についてチェックを行っておりませんのでどの過程がどの程度音質に影響したかは検証できないままでおります。しかしこれらの変化を施した後のアンプは初期のアンプに比べて確かに素直な音がすると感じました。これらの変更を加えてことは自分の好みからいうと成功であったと考えております。その後、EL34についていくつか差し替えて聞いてみました。Tronal、ユーゴ製(ガラスの封じ切がトップに付いたもの)、RFT製それからMullard復刻(ロシア製)で聞き比べをしました。大変驚いたことに自分の耳ではその差が判りませんでした。ここからは仮説ですが差動増幅回路でA級動作をすると素直な性質になるのと引き換えに真空管ごとの個性が失われるのではないかと感じております。しかしながら自分としてはこのアンプの音は大変気に入っております。色々とパワーアンプを作りましたが結局一番好きなアンプであり、今でも我が家の現役エースとして頑張っております。



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