Marantz Model7 No.24 の作製
モデル7の24番目について紹介したいと思います。以前、21番のモデルでRIAA特性について調べました。 その時に強く思ったことがあります。RIAAを構成するCRについてもっとこだわってみたいということです。 抵抗については無誘導であり精度の高いものがあるそうです。恥ずかしいはなしですが、今まであまり意識して きませんでした。巻き線抵抗を想像するとすぐに理解できますが、導電体を筒に巻いて作った抵抗器は コイルと同じ働きをすることから、交流に対してリアクタンスを持つことになります。そうなると RIAAのようなデリケートな回路では思い通りの性能が発揮されないと危惧されます。そこで、抵抗の 電気特性と周波数の関係について調べてみました。電気抵抗では直流に対する電気抵抗に加えて 交流成分に対するリアクタンスとして容量性と誘導性のものが存在するそうです。誘導性は上記のとおり コイルとしての働きです。容量性は抵抗器全体で構成してしまう微小容量のコンデンサーとしての 機能です。電気抵抗は構造によりいくつかの種類が存在ます。一般的にオーディオで使われているのが ソリッド抵抗、金属皮膜抵抗などでしょうか。その他としてセメント抵抗やクラッド抵抗なども あります。巻き線を使うことから一番誘導性があるものはセメント抵抗のようです。普通の抵抗では 数10 nH程度と見積もられているそうです。最悪のケースとして 1μHという値を用いて1 kΩの抵抗がどのような周波数依存性をもつか計算してみました。 左の図がその結果です。1 MHzの場合6.3 Ωしか増加しません。可聴領域は20-20kHzなので全く問題ない ことがわかりました。コンデンサーとしての働きは多くの場合1 pF程度のようです。ここでは最悪の ケースとして10 pFとして計算しました。その結果は右の図です。この場合でも100 kHzあたりまで フラットであり影響は無いということになります。

いろいろと調べていくうちに抵抗の素材について 触れられていました。非磁性体が音質の面で良いということのようです。物理学的な考察からは 明確に説明できていないようですが、経験的に知られているようです。このような観点でふさわしい 抵抗を調べた結果リケノームのRMAと呼ばれるものやアムトランスのAMRGと呼ばれる炭素皮膜抵抗があります。 RIAAに使う1 kΩはAMRGのものを、その他はRMAのものを購入しました。いずれもリード線が金メッキされており いかにも良い音が出てきそうな印象があります。次にコンデンサーについてですが、こちらは あまり選択肢がありません。一番精度の良いものとしてMICAコンデンサーを採用することにしました。これは誘電体に 天然鉱物である雲母を使用しており電極は銀ペーストが使われていることからシルバーマイカと呼ばれています。 優れた電気特性に加えて耐熱性が良好であることから比較的高価ですが使うことにしました。

RIAAで重要な1.6 nFおよび5.6 nFのコンデンサーと1 k, 47 kおよび680 kΩの抵抗については左右のバランスがそろっているものを選別して セレクターやレバースイッチに装着しました。500 kΩのボリュームですが、いつも使っている東京コスモスの RV24YGタイプが製造中止になっており入手できませんでした。在庫のものがありますが、ガリがあったり 左右の違い(ギャングエラー)が大きかったりすることから使うのが躊躇われました。幸い若松通商さんに 問い合わせをしたところRV30YGタイプのものはメーカーに発注できるとのことでした。ポットの直径が 31mmと大きくなりますが新しいものが手に入るので注文しました。1ヶ月ほど待たされましたが手に入れる ことができました。大きなポットはハンダつけしやすかったです。 存在感もあり気に入っています。比較のためにRV24YG(左)とRV30YG(右)を一緒に写真に撮りました。 変な音にならなければ良いと思っています。今回のレバースイッチは イコライザー切り替え用以外は全てCRL(USA製)のものにしました。レバーノブがしっかりフィットします。 また作りが頑丈なようで信頼性が高いと思われます。Model7 No.21も最終的にはCRLのものにして 安定して稼働しています。日本製のものは立て付けが甘く触れただけでノイズが出ることがあるようです。selectorノブ でtape monitorを選択するスイッチは3 wayのうち2つしか使いませんので、レバーが上に行かないようにストッパー をつける必要があります。ここでは、ドリルで穴を開けて2.6mmの皿ネジとナットでストッパーを構成しました。

これらの部品を新しいシャーシに付けていきました。下の図の真ん中と右図を見てください。 真空管の2番ピンにケーブルをはんだ付けします。ハンダ付けを容易にするために側面のシャーシパネルを取り外しました。 この状態でのハンダ付けはかなり容易でした。

今回はイコライザーのRCにこだわったりました。音の違いについて 見極める能力があるか自信はありません。ただ信号の応答などを測定することは 楽しみです。配線は完了しました。目標をもつとモチベーションが上がりますから 作業がはかどり完成までの時間が短くなるものですね。最近ではモチベーションを 探すのが大変です。

電源回路について少し述べてみたいと思います。今回はトランスとして春日無線のKmB60にしました。 6.3V/1.5Aのタップを直列に繋ぎさらに倍電圧整流しました。左図のような構成です。 ファーストリカバリダイオードのHER203を並列して使いました。これは200V・2Aまで流せる高効率・高速のダイオードです。 並列にしなくても問題無いと思われますが念の為並列にしました。図中のA点では30.4 VでリップルであるAC成分は710mVでした。 比率にすると2.3%です。B、C、D点でのリップルはそれぞれ480mV、165mVおよび1.8mVでした。D点でのAC成分の 比率は0.009%です。大変優秀な直流が得られたことになります。また電圧降下からヒーター回路(パイロットランプを含む)の 電流は0.57Aとなります。12AX7の定格は0.15Aなのでトータル0.6Aが予想されることから、5%程度少ないですが真空管のバラツキなどを 考えるとまずまず合格ということなのでしょうか。B電源はモデル7Kとほぼ同じです。オリジナルの7Kでは整流用ダイオードはRA-1E(400V・1A)が選ばれていました。 これは普通のシリコンダイオードです。現代ではほとんど入手できないので、ショットキーバリアダイオードの UF4007というものを採用しました。これは定格が1000V・1Aなので十分です。ファーストリカバリーダイオードということで 電気的には優れた性能を持った素子です。全体的に少し電圧が低めになりました。A点でのリップルは8Vでした。 B、C、D、E点のリップルはそれぞれ760, 81, 2.5, 0.4 mVでした。F点では0.1 mV以下でとなりました。 D点でのリップルは0.001%以下ということから良好な直流が得られたことになります。オリジナルの7Kでは 総電流値11.4 mAで、赤色(カソードフォロワー用)が8.2 mAで黄色(リニアーアンプの初段と次段)が1.9 mAおよび 白色(イコライザーアンプの初段と次段)が1.3 mAと設定されています。 本機では赤色が9.6 mA、黄色が2.6 mAで白色が1.2 mAと測定されました。カソードフォロワーの電流が 大きいです。1プレートあたりにすると2.05mAのところが2.4 mA流れていることになります。 これから少し時間をかけて原因を調べたいと思います。

今回はシルバーのフロントパネルにしました。また、真空管は全て東芝の通測用あるいはHiFi用で 統一しました。これから少しエージングしてパフォーマンスについて測定していきたいと思います。 音楽を楽しみながら本機についてしばらく運転してみようと思います。そのうち時間ができた時に 初期の目的であった信号応答の周波数特性などを調べたいと思います。結果については後日 ここにアップデートするつもりです。


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