2A3シングルアンプの作製
 直熱3極管はなんといっても素晴らしい真空管といわれているようです。中でも300Bというのがありますが米国のWesternElectric社が映画館などの専用のアンプシステム向けに作っていたものだそうで、民間ではあまり出回っていなかったものだとのことです。その後多くの要望があることから民間用に復刻製品が出されたそうです。2000年ごろまで販売されたということです。復刻盤でも1本5万円では買えないくらいの高値がついているようですね。Westernの刻印が袴に入った真空管となると既に骨董品やアンティークとしての価値も出てきているそうで我々庶民にとっては手の出せない存在のようです。300Bの弟分のような真空管で2A3というのがあります。ここまで人心を引き付けて止まない2A3や300Bの魅力を確認したい。A級シングルアンプを体験してみたい。高域の清涼感を体感してみたい。などの欲求が高まってきます。そのような思いが湧き上がる中で、2A3(EHのゴールドグリッドpp)を格安で(ペアーで8400円新品)入手できてしまいました。このことから、初期段階では2A3を使うことを想定し、将来的に300Bに変更できるよう設計しました。
 2A3のデーターシートを検討したところ標準的な仕様として、動作点(250 V, 50 mA)、バイアス電圧-46.5 V、ロード抵抗2.5 kΩが記載されています。300Bへの拡張を考えて2A3と300Bの差異を整理しますと、フィラメント電圧(2A3:2.5V、300B:5.0V)とB電源の動作電圧(2A3:250V、300B:350V)、そのときのバイアス電圧(2A3:-45V、300B:-74V)となります。そこで、トランスの出力端子として250Vおよび280Vが必要です。また、フィラメントを直流点燈させることから、直流5.0V(3A以上)が確保される必要があります。これらを考慮すると、ISOのGS-250(仕様:280V〜250V〜0〜60V〜250V〜280V ACO.25A DC CT球250mA Si240mA 0〜5V〜6.3V3A 6.3V2.5A×3回路)がベストであると判断しました。(MX-205も候補となるかもしれません)。出力トランスについては(シングルではあまり選択肢がないU-808も候補となる)、ISOのXE-20S(仕様:一次インピーダンスが2.5,3.5,5.0kΩ選択可、最大電流160mA)がベストだと判断しました。2A3仕様ではフィラメントはDC5Vとして直列で点燈させることにしました。これは左右のフィラメントのアンバランスがあるときには良くないかもしれないのでバランス抵抗を入れることで対応しました。
 2A3のロードラインについて検討しました。2A3ではプレート損失が15W以下であり、プレート電圧は300V以下という厳しい制約がある中で、出力を多くとり、ひずみを出来るだけ抑えるということ、出力トランスのインピーダンスはあまり大きくしたくない(最大で5kΩ)、B電源は250VAC端子から整流しても320V程度は発生してしまうのであまり、ブリーダー抵抗で落としたくないなどの要望が挙げられます。動作電圧として240、250、270、300Vでひずみと最大出力について検討しました。その結果、E0=300V、I0=50mA、バイアス=-57.5V、インピーダンス=5kΩとすると
Imax = 92 mA : Vmin=88V
Imin = 14 mA : Vmax=483 V
Pw= (Imax-Imin)x(Vmax-Vmin)/8000=3.85 W
D = ((Imax+Imin)/2-I0)/(Imax-Imin)x100 = 3.8%
がベストであると結論しました。バイアスが約-60Vであることから、フルスイングで120Vppのドライブが初段管に期待されます。ロードラインの図はこちらにあります。
 2A3(あるいは300B)をフルスイングするとき120Vは確保する必要がありますので、増幅率の高いGT管として6SL7が初段管の候補となります。この球を用いる場合の欠点はインピーダンスが高いためロード抵抗を大きくする必要があることです。それによる高域の特性の悪化が心配です。解決策としてSRPP回路を導入し出力インピーダンスを低下させることにしました。ここで、検討することは上段管のカソード抵抗値と下段管のカソード抵抗値とB電圧の設定です。Rk=1.5kΩとすると真空管抵抗(Rv)は約150kΩとなります。6SL7の最大プレート電圧が300Vですので、B電圧を300Vと設定してロードラインを引きます。真空管抵抗ラインとロードラインの交差点が動作点となりますから152V、0.93mA、バイアス-1.3Vとなります。−1.3V近辺で2Vpp入力電圧が変化すると、プレート電圧は(98−198V)変化します。100Vppとなり、フルスイングには少し足りないのですがとりあえず良しとします。真空管抵抗の値は
Rv=rp(プレート抵抗)+(Rkx増幅率)+Rk (@6SL7)
 =44kΩ+(1.5kΩx70)+1.5kΩ=150.5kΩ
で計算できます。フィラメント用のDC電源については将来的に300Bへ拡張する予定があるのでDC 5.0Vを作ることにしました。また初段の6SL7についてもDC点燈にしました(今考えればまったく必要がなかったと思います。)。DC 5.0Vは6.3 Vを整流して3端子レギュレーターで作りました。脈流の乗ったDCは7.5Vだったので3端子レギュレーターにより5.0Vを取り出すのはちょっとマージンが少なすぎると思いましたが、何とかなりました。3V以上のマージン(電圧差)がほしいところです。初段のヒーターについてですが、SRPPの上段のカソードが高電位となりますのでB電源を分圧して75V程度浮かせてカソードとヒーターの電圧差を少しでも小さくしました。2A3のバイアスは固定バイアスなので可変抵抗を使いある範囲で変化できるようにしました。とりあえず2A3の本来の姿を見たいという思いからNFBはかけないシンプルな回路にしました。回路図はこのPDFにあります。素人が設計したものですので、この回路を試されて起こった事故につきましては自己責任でお願いいたします。


シャーシは鈴蘭堂のSL-8です。(製造元はタカチです)。知り合いの金属加工会社で天板およびサブパネルを加工してもらいまいました。図面はこのPDFにあります。 天板の図面はこちら サブパネルの図面はこちら






完成した2A3シングルアンプです。




早速に電圧チェックを行い、しばらく試運転した後興奮冷めやらぬうちにCDによる音出しをしました。CDから直接つなぎました。この記事はその後かなり時間が経過してから書いているのですがその時のことを鮮明に覚えています。バイオリンを聞きました。「あれ、こんなに線が細いおとなんだ」という感じでした。高音域についてはあまり違和感を感じていませんでしたが、低音域がとても細く感じました。少しびっくりというかがっかりという印象でした。早速その前に作ったEL34PPと音比べを行いました。

何とも比較にならないのです。シングルアンプがとてもナローレンジに感じて仕方がありませんでした。とりあえず帯域を調べてみることにしました。8Ωのダミー抵抗をつなぎ、波形発生器から作った矩形波の電圧を色々な周波数でプロットしてみました。その結果は


このようになりました。予想通りです。60Hzあたりから減衰が始まりだしています。やはりシングルアンプでは低域が少し弱いようです。これはトランスの性能によるところが大きいようです。このアンプを寝室のサブシステムのメインアンプとして就寝の前に静かな曲を低音量で聞いていました。そのうちに大変柔らかいそしてすがすがしい音が好きになってきました。自分でもなぜなのかわからないのですが、1,2か月のうちにとってもその音が気に入ってきました。きっとEL34PPと比較していたので物足らなさを感じていたのだと後からわかりました。良い例えかどうかわかりませんが、最初のうちは少し甘口の白ワイン(ドイツワイン)が好きだったのですが、友人に進められてフランケンワインなどの超辛口ワインを飲み始めたところ、最初はとっつきが悪いのですがだんだんとそのテーストが好きになってくる感覚に似ている気がします。このアンプはサブシステムとして長く使おうと考え始めました。300Bへの変更も興味がないわけではありませんが、せっかく好きになってきたのでもう少しこのままで楽しもうと決心しました。ところが、自分の後輩でG大学の教授になられたO先生が真空管アンプを作ってみたいといわれたのでそれなら是非ともこの気に入っているのを差し上げようと思い立ちました。結局Oさんのところにお嫁入りしました。その後長く使ってくれているとのことでうれしい限りです。300Bへの思いはまたそのうち機会が訪れたときに取っておくことにします。

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